語学学習に暗記はつきもの、とはいえ、丸暗記だけしていても、話せるようにならないことにお気づきだと思います。
今日は、英語学習で注目されている「第二言語習得論」を、スペイン語学習に置き換えながらお話していきます。
第二言語習得論とは、人が母語以外の言語を身につける時に、「どのようなプロセスで習得していくのか」を研究する学問です。
研究は、言語学はもちろん、脳科学や心理学などと密接に関係しています。
第二言語習得研究では、多くの専門家が研究結果や理論を発表しています。その中でも有名な、アメリカの言語学者スーザン・ガス氏が提唱した「第二言語学習の時に脳内で起こるプロセス」を解説します。
この認知プロセスとは、インプットからアウトプットまでの間に起こる学習者の意識の働き、意識の変化について示したものです。
インプットが大事だという話は、みなさんも聞いたことがありますよね?
そして、実際にアナタも、大量の情報をインプットしようとがんばっていると思います。
でも実際には
「ちゃんと勉強しているのに、全然話せるようにならない」
「文法を勉強すれば話せるようになると思ったのに、会話になれば頭が真っ白になってしまう」
というのが現実ではないでしょうか?
一生懸命単語の勉強をしたり、問題集を解いていたりしている人ほど、いつまでたっても話せるようにならないと感じていると思います。
私はこれまでに400名以上の方を指導してきて、早く話せるようになる人とならない人には、大きな違いがあることに気付きました。
情報インプットをするときに、大事なことが抜けていると、今やっているその努力がムダになってしまうんです。
今日は効率的なインプットの仕方についても、ワークを通じて解説していきます。
いきなり丸暗記は全部無駄
皆さんはスペイン語が話せるようになるために、いきなり単語や動詞の活用を覚えたことがあると思います。
実はこれらは、効率の悪い学習法です。
この考え方では、暗記が得意な人と、そうでない人、継続する力がある人、そうでない人というように、もともとの能力の差が出てしまいます。
そもそも、もしアナタが暗記が得意であれば、この記事を読んでいないはずです。
実は、私自身は、単語の暗記が大嫌いなのです。
そのため、フラッシュカードを作ったり、単語や動詞の活用を1つ1つ覚えたことがないんです。
皆さんは、スペイン語が話せるようになるために、いきなり単語の意味や文法をインプットしようとしていませんか?
そのまま丸暗記しようとしていませんか?
スペイン語だけでなく、語学学習は、数学とは違います。
公式を覚えて当てはめていくだけでは、話せるようにはならないのです。
これから紹介することを徹底するだけで、日ごろの学習の質が10倍以上濃くなります。
さらに、学んだ知識を垂れ流しにせず、実践で使えるようになるので、自然と話せるようになります。
スペイン語が話せるようになるために
学んだ知識を垂れ流しにせず、実践で使えるようになり、自然と話せるようになるために大事なことは、何でしょう?
結論から言うと、それは「気づき」です。
「気づきって何?」と思いますよね?
この表を見てみてください。
冒頭でお話したアメリカ合衆国の言語学者、スーザンガスさんによる、第二言語習得の認知プロセスを基に作成した表です。
インプットとアウトプットの間には、4つのプロセスがあります。
1つ目は「気づき:noticing」、2つ目は「理解:comprehension」、3つ目は「内在化:intake」、4つ目は「統合:integration」。そしてアウトプットへ繫がります。
ちなみにこれを学習の過程でスムーズに行わなければインプットの効果が半減、または全部無駄になってしまい、学んだ知識をアウトプットすることができません。
それでは順番に、説明していきます。
これを知るだけでインプットの質がガラリと変わります。
1つ目「気づき:noticing」は、学習者が、自分の耳や目を通して入ってくる表現や音などに「意識を向けること」です
例えば、なんとなくスペイン語の音楽を聴いているときは、気づきはうまれません。
でも、学習していくうちに、単語が拾える瞬間ってありますよね?Bailarや corazón とか。
こんな感じで、ぼーっと聞き流していた状態から、「あ!」と思ったとき。注意を向けたときに気づきがうまれます。
これが学習のインプットと、どのように関係があるのかは、後で説明します。
2つ目「理解:comprehension」というのは、1つめの気づきから、単語の意味や文法の意味を理解する段階です。
Voy a bailarという文があったときに、単語の意味だけではなく、IR a +動詞の原形は、「~する予定」という文法知識を使って、文全体の意味がわかる。これが「理解:comprehension」です。
3つ目「内在化:intake」というのは、その名の通り、理解したものを学習者の内部へ取り込んでいくことです。
ここでは、2つめの「理解」の段階で立てた仮説を検証します。
Voy a bailarを、実際に書いたり話したりすることで、相手の反応を見て、正しく使えているかどうかを確認するところです。
4つ目の「統合:integration 」というのは、学習した表現が「長期記憶」として学習者内部に定着し、自動的に使いこなせるようになる段階です。
何度も使うことで、記憶に定着させていきますよね。
さきほどの例だと、毎週ZUMBAのレッスンを受けるたびに、「Voy a bailar」を言うことで、意識しなくても勝手に口から出てくるようになる、という段階です。
簡単にまとめると、
①最初になんとなく聞いていた音楽から、BAILARという単語に、気づいた。
②Voy a bailarという文を、単語と文法知識を使いながら、意味を予測します。
③そして実際に書いたり言ったりすることで、予測が合っているかどうかを確認
④そして最後にVoy a bailar を何度も言うことで、アウトプットができるようになる
ということです。
4つのプロセスをもっと身近に、もう少し分かりやすく身近な例でみてみましょう。
例えば、先日受講生さんから、
「スーパーでペルー産のアボカド売っていたので買っちゃいました」とメッセージをいただきました。
そして、「あれ?アボカドってAbocadoでしたっけ?」と、彼女は思ったそうです。
はい、みなさんは、アボカドはスペイン語で何と言うか知っていますか?
Aguacateは、中米やスペインの言い方です。
ペルーでは、Paltaといいます。これはインカ帝国の公用語であったケチュア語からきています。
これをこの4つのプロセスで考えてみると
①アボカドってなんていうんだろう?という「気づき」がある
②辞書で調べると、paltaと書いてあったので、それを使って、えみこさんの作文課題で使ってみた
③指摘されなかったので、検証完了
④自信を持って使えるようになり、定着する
ここまでくると、お友達と話すときにも
¿Te gusta la palta?
¿Cuánto cuesta una palta en Japón?
と、アウトプットできるようになりますね。
つまり、気づきがあって、理解を基に予測して、それが合っているかを確認し、繰り返し復習して定着させるということです。
このプロセスが語学学習では必要なのです。
ちょっと考えてみましょう。
意味を調べてこういう時に使うんだろうと予測して、合っているかどうかを確認して、復習する、
というのは、すでにやっていませんか?
単語暗記してる、文法も勉強している、反復練習もしているのに、
・全然頭に入ってこない
・すぐに忘れてしまう
・実際の会話で使えない
という経験はありませんか?
繰り返します
単語暗記してる、文法も勉強している、反復練習もしている。
はい、4つのプロセスの中で足りないのは何ですか?
そう、「気づき」の部分ですね
ほとんどの方がやっている単語帳で上から下まで単語をただ暗記しているだけでは、頭に入らなくて普通です。
普段スーパーで目にしている野菜も、意識を向けて初めて、気づきになります。
「あれ?アボカドってなんていうんだろう?」と思うこと。
そして、そのアボカドという単語は、誰とどんな場面で話すときに使えるのか?
どんな文を組み立てられるのか、という、気づきが大切です。
大事なのは、気づき!まず、意識を向けることが必要です!
気づきなしに、アボカドという単語を覚えようとしても、まず、情報が頭の中に入ってきにくい。だって必要性を感じないですよね?
さらに、がんばって根性で覚えようとしたところで、「気づき」を飛ばしてしまっているので、アウトプットができない、実際の会話で使えない、ということが起こっていまうんです。
気づきの正体
ここまでお話してきて、「気づき」って結局何なんだろう?って、思っていませんか?
一言で言うと「身近に感じること」です。
特に文法を理解するときに、文法ルールだけ丸暗記しようとする人がいます。
語学は、数学ではないので、公式を覚えて、そのままあてはめようとしてもムダです。
スペイン語文法学習においての具体例を挙げてみましょう
では、みなさん、SERとESTARの使い分けのルールを答えてください。
3,2,1。どうぞ!
ほとんどの人が、SERは変わらないこと、ESTARは一時的なこと
と答えられたと思います。
では、「この野菜安いね」は、SERとESTARのどちらを使うと思いますか?
考えてみてください。
正解は、Es barato. Está baratoどちらでもOKです。でも、使う状況が違います。
みなさんは、使う場面の違いをイメージできますか?
ほとんどの方がわからないと思います。
Es barato.は、SERを使っているので、そのものの性質ですよね。なので、元々安いモノ。
Está baratoは、ESTARを使っています。いつもはそうではない、ということなので、普段は高いお野菜の値段が下がっているときに使います。
いつもは1個300円するアボカドが、1個100円セールをしている、という時などに使います
この違い大丈夫ですか?
野菜だけじゃなくて、果物でも、お洋服でも、本でも、何でも同じです
このように、SERとESTARについて学んだら、どういう場面で使えるの?どういうニュアンスの違いがでるの?という具体的なシチュエーションをイメージすることが大事です。
これが、文法を勉強するためだけの、勉強にならずに、使いこなせるようになる学習法です。
「気づき」を得る イコール 「身近に感じる」ということです。
「えーでも、そんなの浮かんでこない」と思いますか?
実は、意図的に作り出していくことができます。いつも通り、ここからはみなさんが実践できる具体的な方法を紹介していきます。
「気づきを作る」具体的な方法
私の十八番は、「スペイン語が話せるようになる学習法」なので、話せるようになるという観点からお話します。
結論から言うと、それは「先に日本語で考える」です。
スペイン語はスペイン語で考えるべき!と頑なに、日本語の介入を嫌う人がいますが、私は非効率だと思っています。
人それぞれ学習歴やバックグラウンドが違いますよね。
「私はこれで話せるようになりました」ということは簡単です。
でもそれだけでは意味がないと、私は思っています。
他の人に当てはまるかどうかもわからないものを、お伝えするわけにはいかないと思っています。
受講生さんの結果が出た方法や、研究結果が出ているものをお話しています。
さきほど、「気づき」を得る イコール 「身近に感じる」ことだとお伝えしました。
身近に感じられる内容は、みなさん一人一人違います。
例えば、お料理が好きな人は、「ザルにあげる」ってなんていうんだろう?
というところが、気づきになるかもしれないですね。
サッカーが好きな人は、もしメッシに会えたら、何を聞きたいですか?
何か1つお願いができるとすれば、何をお願いしますか?
他にも好きなスポーツ選手やアーティストがいる方は、その人に対して、聞きたいことやお願い事を考えてみてください。
そのお願いや伝えたいことを、きちんと相手に伝わるスペイン語にするには?と考えるんです。
ワクワクしませんか?ちゃんと伝えたいと思いませんか?
1回日本語にすることで、整理され、明確に言語化することができます。
ということは、身近に感じる、イコール、必要な表現なんだ!という気づきがあるので、脳にも入ってきやすくなります。
これに対して
「ホセはフアンよりも背が高い」という
いつ使うのかわからない、単語帳に載っている例文を、いきなり暗記しようとすればどうでしょう?
脳にとっては「気づき」も「身近さ」もないため、スルーしてしまいます。
「気づき」なしで覚えようとしても、すぐに忘れてしまうので、その労力がもったいないですよね。
無駄になってしまいます。
たくさんの方が勘違いしがちなのですが、お一人お一人必要な単語やよく使うフレーズって違います。
だから、本に載っている表現をそのまま暗記しても、使えないんです。
大事なのは、自分が必要な表現を学ぶこと。
それを知るためにも、一度日本語で書く、言語化する作業は欠かせません。
まとめ
短時間でアウトプットができるようになり、スペイン語が話せるようになる方法は、何でしたか?
ただ覚えてインプットしようとするのではなくて、覚える前に必ず「気づき」が生まれる工夫をすること。
具体的には、日本語で自分が使う言葉を先に書き出してから、それをスペイン語にしてみてください。
そうすることでただの例文ではなく、あなただけのオリジナルかつ、使えるフレーズ集を作ることができます。